秋は世界が赤や黄色に染まる美しい季節です。昔から多くの和歌に山々の美しさや、神秘的な様が詠まれました。また、好んで小説の題材にされる季節が秋です。春の桜も幻想的で素敵ですが、秋の夜に美しい月やどこか寂し気な風も魅力的です。
芥川龍之介の小説に「秋」という作品がありますが、小説のタイトル通りに舞台となる季節は秋で、人間の心模様と秋という季節がマッチして非常に美しい作品です。秋にはやはり秋特有の魅力があるのではないでしょうか。そしてそれは、現代に生きる私たちを惹きつけてやみません。
そんな魅力的な季節である秋を感じられる日帰り人気スポットをご紹介します。ちょっと足を伸ばして、文学や和歌にも歌われる秋の美しさや叙情的な空気を楽しんでみてはいかがでしょうか。
東京都文京区の「六義園」
秋を感じることのできる美しい日帰りスポットとして真っ先にご紹介したいのは、関東圏に住んでいる方にはお馴染みの、あの庭園です。徳川綱吉のもとで側用人を務めた柳澤吉保が七年の月日をかけて作った江戸を代表する二大庭園として知られているあの庭園・・・そう、駒込駅から徒歩七分とアクセスも抜群な東京都文京区の「六義園」です。
六義園は、詩に深い関係のある庭園です。中国の古い漢詩を紀貫之が和歌の六体(六義)として転用して広めたことに、庭園の名前が由来します。この六体を簡単に説明すると、和歌や詩の分類のことで、和歌や詩は「いわいの歌」や「たとえの歌」「かぞえ歌」などの六種に分けることができるという考え方です。柳澤吉保の造り上げた庭園には、六つの分類がぎゅっと詰まっているようなもの。春夏秋冬の雅や趣などが、六義園という名前と景観を通し、胸に染み入るようではありませんか。
六義園は秋の紅葉も美しく、紅に染まった樹木が太陽の下でも鮮やかです。また、夜はライトアップされて、池の水面に紅が映り、何とも幻想的です。六義園は仕事の帰りにも立ち寄ることのできる立地です。仕事帰り、秋の情景へと寄り道してみてはいかがでしょうか。
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index031.html
東京都新宿区の「明治神宮外苑」
もう一カ所、仕事帰りにも簡単にアクセスできる秋の人気レジャースポットがあります。新宿区という東京の真ん中にある「明治神宮外苑」も、関東圏に住む人にとってすぐに思い浮かべることのできるスポットです。あまりに当たり前すぎて、秋のレジャースポットと言われてもすぐに思い浮かばないかもしれないですね。
明治神宮外苑には140本を超える銀杏が並木を作っています。十一月中旬頃になると銀杏が全て黄色に染まり、落ち葉によって道は黄金の絨毯を敷いたようになります。東京都心の秋といえば明治神宮外苑の銀杏並木と言われるほどです。通りを散歩するだけでも秋の色彩を感じることができ、ふと一句読みたくなってしまうのではないでしょうか。
明治神宮外苑では、黄金の銀杏の見頃である十一月半ばから十二月まで「神宮外苑いちょう祭り」が開催されます。お祭りに付きものの屋台や特産品を売るお店なども並びます。お子さんを連れて秋を楽しみながらお祭り気分を味わうことのできる素敵なイベントです。
http://www.meijijingugaien.jp/
http://www.meijijingugaien.jp/event/
埼玉県秩父郡の「長瀞町」
次にご紹介するのは、埼玉県秩父郡の長瀞町です。長瀞町は町全体が紅葉スポットばかりです。十月上旬から紅葉が色づきはじめ、十一月半ば頃に見頃を迎えます。2017年は11月1日から末日まで「長瀞もみじ祭り」が開催されます。町の観光案内所やコンビニエンスストアなどで町内の紅葉が美しいスポットを紹介した地図などを配布しているようですので、地図とお弁当を持って散策に繰り出すのも楽しそうです。
長瀞町自体が紅葉の有名な一つの名物スポットなのですが、町の中でも特に有名なのが「岩畳(長瀞渓谷)」「金石水管橋」「宝登山」の三大紅葉スポットです。岩畳(長瀞渓谷)はゆったりと船下りをしながら紅葉を楽しむことができ、金石水管橋は橋の周囲全てが紅葉という絶景スポットです。宝登山ではロープウェイから紅葉を見下ろすことができるため、一面の紅葉の絨毯を楽しむことができるのです。また、山頂からは長瀞町や周囲の山々を眺めることもできます。
長瀞駅から徒歩10分圏内にある「月の石もみじ公園」「宝登山神社」「カエデの森(自然の博物館)」では紅葉がライトアップも行われるため、薄暗くなってからの散策もお勧めです。見惚れるくらい幻想的ですよ。カエデの森は月の石もみじ公園と隣接しているため、セットで楽しむことができます。
埼玉県日高市の「巾着田」
紅葉ではありませんが、同じ紅の仲間であり秋に花を咲かせる曼殊沙華。埼玉県日高市の巾着田は500万本の曼殊沙華が咲く場所として全国的に有名です。紅の花が秋の情景の中で一斉に花を咲かせる様は圧巻の一言です。曼殊沙華は繊細な花ですから、遠目から紅の絨毯を見るもよし、近づいて花一本一本の美しさを見るもよし、です。
曼殊沙華は彼岸の花と言われます。彼岸頃に花を咲かせることから、彼岸花とも呼ばれます。彼岸とは「対岸」という意味です。巾着田の曼殊沙華を見ていると、対岸にあるどこか不思議な世界に誘われてしまいそうです。新美南吉の名作「ごんぎつね」にも曼殊沙華の花が登場します。紅の花々を見ていると、花の向こうからひょっこり狐が頭を出しそうだと思いませんか。
なお、曼殊沙華の見頃は九月前半から十月上旬頃になります。年によって開花時期や見頃がかなり違っているようです。全般的に紅葉や銀杏より少し早い見頃となりますのでご注意ください。まずは曼殊沙華で早めの秋を感じ、次の紅葉や銀杏を楽しむという秋の旅行計画も素敵ですね。
http://www.kinchakuda.com/index.htm
http://www.kinchakuda.com/man_kaika_rireki2013.html
最後に
日帰りできる秋の人気レジャースポットを4カ所ご紹介しました。改めて考えてみると、どこも秋のお手軽旅行スポットとしては有名なところばかりです。有名過ぎて、かえって旅行先から外してしまうこともあるのではないでしょうか。ふと横を見ると、身近なところに秋を楽しむことのできるスポットが隠れているかもしれません。
”ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた”
サトウハチローさんが作詞し、中田喜直さんが作曲した有名な童謡の一節です。
普段何気なく通っている道々にも秋が隠れているのではないでしょうか。今回ご紹介したスポット以外にもたくさんの秋の情景が隠れています。それを探すことも秋の楽しみの一つかもしれないですね。秋の行楽、是非お楽しみください。