今日、誰でも簡単にインターネットで世界中の情報を得ることができる時代となりました。
それゆえ、人々の価値観も変化し、多様化しています。
たとえば現代の日本の家族観では、少子高齢化や核家族化にますます拍車がかかり、更に一生結婚せず、家族を持たないという選択をする人も多くなっていますが、それは葬儀事情にも大きな影響をもたらしています。
最新の葬儀事情がどうなっているのか、その変化とともに見てみましょう。
戦後から平成における葬儀事情の変化
日本において戦後の長い間をかけて、葬式を「通夜」「葬儀・告別式」の2日間で執り行うことが主流になりました。
その背景には遺族や親族、関係者の生活の拠点が地方から都会などの他地域へ広がったことなどが挙げられます。
田舎の親が亡くなり、都会にいる子どもが帰省し葬式を執り行わなければならないとなると、あまり長い日数をかけられません。
また、死者を弔う宗教儀礼である葬儀式と、参列者が死者とお別れをする社会儀礼である告別式を同時に行えば、参列者や会葬者の負担も減ると考えられたのです。
私たちが現在一般葬と認識している葬式は、このようにして定着していきました。
平成に入ると、「葬儀・告別式」への参列よりも、「通夜」への参列が多く見られるようになりました。
「葬儀・告別式」は通常火葬時刻に合わせるため、日中の時間に執り行われます。ここに参列しようとすると、会社を休まなければならないため、勤務後である夜のほうが都合が良いということで、会社関係者などは「通夜」への参列が主流となったのです。
このような現象から「通夜」は「通夜・告別式」と言い換えたほうが実情に合うかもしれません。
ごく最近では、この2日間ですら更に短縮し、通夜をせず、葬儀・告別式から火葬へという「一日葬」という形も増えています。
また、長引く不況によりあまりお金をかけられないという理由から、葬儀自体の小型化も進みました。
ただし、「家族葬」として知られている形式は、一般葬より小規模なため費用が安くすむと思われがちですが、
小規模つまり会葬者がいない、あるいは少ないということで香典が集まらず、結局は持ち出しが多くなるといった場合もあるので注意が必要です。
葬儀会館の登場とサービス化
次に葬式の場所の変化を見てみましょう。元来、葬式は自宅や寺で行われていましたが、便利さや快適さを求める声が社会的に大きくなり、葬祭業者による葬儀会館が建設されるようになりました。
自宅や寺では、近所の人々が準備や給仕、寺院の接待などを行ってきましたが、葬儀会館では葬祭業者が代わりに行うので、遺族にとっても周囲の人々にとっても負担が減ったと考えられます。
また、車での移動が主流の地域にとっては駐車場が完備された葬儀会館は、より便利なものだと言えますし、高齢化や生活スタイルの変化により正座がつらいという声を軽視できなくなっている状況においては、それに応えるべく多くの椅子を並べることができると言った点が快適さにつながっています。
葬儀の小型化が進むようになった昨今では、ホテル並みに遺族控室を充実させた葬儀会館も増えているようです。
葬儀会館の登場は、葬式におけるサービスという新しい概念も生みました。葬祭業者が遺族や参列者に対して便利さや快適さを提供するという考え方です。
この点に関しては、葬祭業者が葬儀を先導しているという批判が存在することは否定できませんが、あらゆる分野でサービスが求められる現代においては、逆らうことのできない流れと言えるでしょう。
その結果、葬式は地域の慣習を重んじる傾向から本人や家族の意向を重視する傾向に変化し、多様化を見せるようになります。
そして、人々が消費者目線を持つようになったため葬祭業者にもサービスの品質が求められるようになり、業界全体でもサービス向上、品質向上に取り組んでいます。
終活の広がり
葬儀事情を考える中で、近年最も顕著な変化の一つは「終活」の認知ではないでしょうか。
「終活」とは、人生の終わりに向かい自分でその最期を準備する活動のことです。
古来より「死」というものを口にすることは「縁起が悪い」とされ、「死」を話題にすることそのものがタブーでした。
しかし医療の発達と情報開示が進み、本人による治療の選択が可能となったことで、おのずと人々が自分の「生」を考えること、ひいては「死」を考えることになり、それは必ずしも縁起が悪いことではなくなってきました。
また、少子化・核家族化を背景に、「子どもたちには負担や迷惑をかけたくない」と考える人が増え、「自分のことは自分で」との思いから、元気なうちに自分の葬儀について準備しようという動きが世の中に受け入れられるようになりました。
身辺整理などの後始末という点では、最近の片付けブームに結び付けて活動する人も多くいます。
自分が死んだら
- まず誰に連絡するのか
- 葬式はどこの葬儀社に依頼するのか
- 葬儀費用はどのように貯めてあるか
- 遺産はどうするのか
等が詳細に記された「エンディングノート」と呼ばれる冊子は、元気なうちに時間をかけて自分の死や死後のことを考える終活の集大成かもしれません。
とはいえ、葬式というものは近親者の立場として人生の中で多く経験するものではなく、どういう風に自分の葬式を考えたらいいのか分からないというのも現実です。
そこで、昨今は葬祭業者による「事前相談」を利用する人が増えています。「事前相談」では、葬儀の形や流れについて情報を得たり、自分の希望を伝えたり、見積もりを取ったりすることもできます。
当然、複数の葬儀社を比較したり選択したりすることができるわけです。
終活の広がりにより「事前相談」も広く認知されるようになり、葬祭業者はより多様化するニーズに対応するべく努力を重ねているようです。
なお、高齢の親を見送る準備のために「事前相談」を利用する人も多く、いざという時に慌てないための一つの有効な手段です。
まとめ
時代とともに変化してきた葬儀事情。葬儀にはこれが正解というものは存在しません。
人の人生がそれぞれであるのと同じように、生きてきた社会との関わりによって、それぞれの葬儀の形があるのではないでしょうか。